海外の学校給食をご紹介!~アルゼンチン編~

第10弾となる今回は、南米アルゼンチン共和国の学校給食をご紹介します。

アルゼンチンといえば広大な草原パンパに育つ牛肉と、情熱的なタンゴの国というイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、その給食制度の実態は、私たちが抱くイメージとはひと味違う、複雑で興味深い姿をしています。

ぜひ最後までご覧ください。

アルゼンチンの学校給食の歴史〜貧困対策から「補完サービス」へ〜

アルゼンチンの学校給食は、教育の充実よりも先に、貧困対策・栄養保障の手段として発展してきた歴史があります。その法的な原点は、2002年に制定された「Ley 25.724(国家給食・栄養プログラム基本法)」です。この法律は国が栄養保障の責任を担うことを宣言したもので、学校給食を「教育政策」としてではなく、社会的セーフティネットとして位置づけるものでした。

その後、2006年には「Ley de Educación Nacional 26.206(国家教育法)」が制定されますが、この法律においても給食の位置づけは「補完サービス」と定義されるにとどまりました。日本の学校給食法が給食を「学校教育の一環」と位置づけているのとは根本的に異なる考え方で、給食は義務と明記されず「予算の範囲内で州・市が提供するもの」という扱いです。2024年の調査では全国公立学校の70%超が何らかの給食を提供しているものの、内容や水準は州によって大きく異なります。なお、慢性的な高インフレが給食予算の実質価値を不安定にさせるという財政的な課題も残っています。

「牛肉大国」揚げ物禁止? アルゼンチンの給食メニューの実態

アルゼンチンは世界有数の牛肉生産・消費国として知られています。広大なパンパで育てられた牛肉は国民食であり、週末のアサード(バーベキュー)は家族の団らんに欠かせない文化です。
そんな「肉の国」の学校給食は、さぞかし肉料理が中心なのでは?と思うかもしれませんが、実態は私たちの想像とはかなり異なります。

国が定める「調理法」と「食材」のルール

アルゼンチンの学校給食の栄養基準とメニュー設計は、国が定めた技術文書に基づいています。この文書が掲げる基本方針は「蒸し・煮込みを優先し揚げ物は制限」「自然食品70%以上・加工食品は禁止」という健康志向の高いものです。

アサードの国で「揚げ物制限」というのは意外に感じるかもしれませんが、これは近年の肥満・生活習慣病対策の流れを受けたものです。食材調達においても「最小限加工・新鮮・多様な食材」の優先使用が推奨され、地産地消や伝統食材の活用が求められています。

具体的な献立はブエノスアイレス市の例でいえば「野菜スープ+牛肉+米+果物」のような構成で、豆類・卵・乳製品でタンパク質を補う設計となっています。

「警告ラベル」がついた食品は給食に出せない

さらに踏み込んだ取り組みとして注目されるのが、2021年に制定された「Ley 27.642(健康的食品促進法:PAS法)」です。砂糖・ナトリウム・飽和脂肪などが一定基準を超えた食品には「警告ラベル」の表示が義務付けられており、学校給食ではこの警告ラベルがついた食品の購入・提供が原則禁止とされています。
菓子類・加工食品・甘い飲料などは給食メニューから事実上締め出されており、チーズやヨーグルトなど栄養価の高い乳製品のみ例外的に許容されています。

南米においても先進的なこの取り組みは、食育とSDGsの観点からも注目を集めています。

セリアック病への手厚い対応

アルゼンチンはセリアック病(グルテン不耐症)の有病率が高い国としても知られており、国が「Programa Nacional de Celíacos(国家セリアック対応プログラム)」を設け、「Ley 27.196(セリアック対応法)」で学校給食へのグルテン完全除去食対応を規定しています。

アレルギー全般については栄養士による個別対応に留まりますが、セリアック病だけは法的に保護されているのがアルゼンチンの特徴的な点です。

23州でバラバラな分権制度~ブエノスアイレス市の先進事例~

アルゼンチンの学校給食を語るうえで、避けて通れないのが「分権」という構造的な特徴です。国が栄養基準の大枠を定めるものの、どの食事を何食提供するか、誰に届けるか、どう調理するかは、すべて23の州と首都ブエノスアイレス市がそれぞれ独自に決定します。

同じアルゼンチンの公立学校でも、住む地域によって給食の中身がまったく異なるのです。

給食格差は「貧困格差」

分権制度の影響は、州ごとの給食カバー率の差に如実に表れています。2022年のデータでは、昼食を無料で受け取れる児童の割合はフォルモサ州で45%、コルドバ州で44%に上る一方、サンタクルス州では0%、ネウケン州・メンドーサ州では7%にとどまっています。
また同調査では、最も貧しい子どもたちの5%しか学校で昼食を受け取れていないのに対し、最も裕福な子どもたちは55%と逆転現象も報告されています。給食が最も必要な層に届いていないという構造的な課題が浮かび上がります。全国で約450万人の児童が何らかの給食サービスを受けているものの、その恩恵は均等には分配されていません。

各州の給食運営は、①学校主体の分散型、②州がケータリング会社に委託する集権型、③自治体が調達・物流を担う地元型、④地域に応じて使い分ける混合型の4モデルに分類されます。

ブエノスアイレス市の先進事例

こうしたバラバラな制度の中で、一際目立つ先進事例が首都ブエノスアイレス市(CABA)です。
CABAは国の基準に上乗せする形で、市独自の「Law 3704(健康的学校給食法)」を定め、ベジタリアン・ビーガンメニューの提供と宗教的・文化的理由による代替食への対応を法律で義務化しています。

ハラール食や先住民食への対応が国レベルでは基準として存在しない中、CABAだけは法律でこれらを保障しているのです。移民・多文化都市としてのブエノスアイレスの性格が、給食制度にも反映されていると言えるでしょう。

一方でCABAは、給食の調理を外部ケータリング会社に委託する「集権型」をとっており、業者が個別包装した食事を各教室に届ける形式が定着しています。利便性は高い反面、学校内で温かい食事を作るという文化は薄く、給食のあり方についての議論も続いています。

まとめ

いかがでしたか?
アルゼンチンの学校給食は、貧困対策を起点に発展してきた歴史を持ち、「牛肉大国」のイメージとは裏腹に、揚げ物制限・超加工食品禁止・警告ラベル付き食品の給食禁止など、健康志向の高い基準が整備されています。一方で、分権構造が州間の給食格差を生み出しており、支援が最も必要な子どもたちに給食が届きにくいという課題も残っています。
学校給食は、子どもたちの健康を守るだけでなく、社会的格差の是正や多文化共生の実現にも深く関わるインフラです。アルゼンチンの事例は、制度設計のあり方が子どもたちの食卓に直結するという現実を、改めて私たちに教えてくれます。

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この記事は2026年2月時点の中西製作所による調査によって制作いたしました。間違い等がございましたら修正いたしますので、ご連絡のほどよろしくお願いいたします。