EXPO2025大阪万博
「イタリア・バチカン館」体験レポート
~芸術が再生する未来へ~

2025年に開催される大阪・関西万博では、各国・地域がそれぞれの文化やビジョンを反映したパビリオンを出展しています。
なかでも、イタリアとバチカン市国が共同で手がける「イタリア・バチカン館」は、芸術、自然、科学、信仰といった多様な要素を融合させた構成が特徴です。
今回は、このパビリオンを実際に訪れて得た体験をもとにレポートをお届けします。
自然素材を活かした建築と設計
建物の外観には木材が多く使われており、柔らかな曲線と直線が調和した落ち着いたデザインとなっています。正面ゲートにはアーチ構造が取り入れられており、古代ローマ建築を思わせる趣が感じられました。
屋上部分には緑を取り入れた庭園があり、空間全体に自然とのつながりが意識されています。テーマである「Art regenerates life(芸術は命を再生する)」は、館内の展示を通じて自然と伝わってくる設計です。

入館待ちの列ができていましたが、日除けやファンが設置されていたため、暑さを避けながら快適に順番を待つことができました。
没入型映像で伝えるイタリアの多面性
館内に入って最初に体験するのは、四方を囲む巨大スクリーンによる映像演出です。左右・正面・天井に映し出される映像には、アルプスの雪解け、丘に広がるオリーブ畑、歴史と共存する街並みなど、イタリア各地の風景が映し出されていました。

そのほかにも、医療技術や宇宙開発に取り組む現代の企業の様子も紹介されており、伝統だけでなく現在の挑戦も描かれています。
映像のラストで現れる「芸術は命を再生する」という言葉は、シンプルながらパビリオン全体の意図を端的に示すものでした。

歴史的作品と現代技術が共存する展示
映像のあとに進む実物展示エリアでは、歴史的価値のある作品と最新技術が同じ空間に並んでいます。
まず目に飛び込んできたのは、天文・地理を象徴する『ファルネーゼのアトラス』の彫像です。

さらに、キリスト教の重要な要素を描いた『キリストの埋葬』や、レオナルド・ダ・ヴィンチの『アトランティック・コード』などもありました。

また、近年の取り組みとして、ミラノ・コルチナ2026冬季五輪の聖火トーチや、イタリアの企業が開発する、再利用可能な宇宙船『AVIO』のモデルも展示されています。

古典と最先端の技術を同一空間に配置することで、「芸術も科学も命を再生する力を持つ」というメッセージが自然と伝わってきました。展示物の間隔にも配慮があり、それぞれの作品に対して落ち着いて向き合える設計となっています。
バチカンが伝える「信仰と自然の調和」
階段を上がった先のフロアでは、「自然と信仰の調和」がテーマとされた展示が展開されていました。室内には草原のように見える床材が使用され、ほのかに木の香りが漂っています。

中央には金属製の花のオブジェが展示されており、その隣には人工的に作られたミツバチの巣が設置されていました。この2つの展示は、伝統と未来、自然と技術が共存する世界を象徴しているように感じられました。

奥にはドーム型の映像空間があり、宇宙や生命、祈りといったテーマの映像が上映されています。宇宙の映像や胎内の鼓動、祈る人々の姿が、美しい音楽とともに展開されていました。来場者は椅子に腰掛けて映像を静かに鑑賞することができ、ゆったりとした時間が流れていました。
建築設計にも息づく「再生」の思想
展示内容だけでなく、建築自体にも「再生」というコンセプトが込められていました。素材には木材や自然由来のものが多く使われており、照明に頼りすぎず、自然光や風をうまく取り入れて設計されています。
壁や天井の細かなすき間からは光が入り、時折外からの風が通ることで、館内に心地よい空気が流れていました。デジタル演出が中心ではなく、自然の要素と共存する空間づくりが徹底されています。
また、歴史ある芸術作品と最先端技術の展示を一つの空間に共存させている点も、このパビリオンならではの特徴です。伝統と未来を対立ではなく融合させようとする姿勢が明確に感じられました。
静かに問いかける、印象深いパビリオン
イタリア・バチカン館は、強いメッセージや刺激的な演出に頼るのではなく、来場者自身が「感じ取る」ことを重視した設計がされています。
芸術や科学、信仰、自然は、いずれも私たちの暮らしと未来を支える要素です。このパビリオンでは、それらを無理なく一つの体験として受け取ることができました。
大阪・関西万博を訪れる際には、ぜひ「イタリア・バチカン館」にも立ち寄ってみてください。